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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
あたしは、女房以外に女を作る男なんて、承知せんですよ」
「おマンさんに、三国一のええ婿さんが出来るように、祈るわ」
チヱは、若いマンの世間知らずを、いたわるような、しんみりした語調で、いった。それは、羨む気持も手つだっていたと同時に、嘗ては、自分もそういう一本気であった、娘時代をふりかえる哀愁の思いでもあった。
(しかし)と、チヱは、思う。(マンさんは、わたしたちと、どこか違うところがある。自分たちが、生活の圧力と習俗とに、わけなく屈してしまったようには、マンさんは屈しないかも知れない。このひとは、なにか、強いものを持っている)
猫は、マンの前だれの中で、眠ったらしい。ゴロゴロと、咽喉が鳴っている。
マンは、遠いところを見る眼になった。
「あたし、だいぶん、当てが狂ったわ。林助兄さんが、何度も手紙くれるんで、思いきって、田舎を飛びだして来たのに、こんなことでは、いつ、ブラジルに行けるのか、わかりゃせん。貯金をして、旅費を作って、アメリカ行の船を見つけて、と思うたのに、……仲仕の賃金なんて安いし、それを辛抱して、ようやく、すこし蓄まると、兄さんから借りられるし……」