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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
チヱは、眼を落して、洗濯する手をつづけた。痩せた長顔に、油気のないほつれ毛が、たれ下って、かすかな風にゆらいでいる。
マンは、洗い終った猫を、前だれの中に包んで抱き、
「きっと、今夜も、喧嘩でしょ。いつも、兄さん、外で飲んで帰ると、ベロンベロンで、ねえさんをいじめる。あばれる。障子や襖を破る。茶碗を割る。ランプのホヤを割る。そして、朝になったら、喧嘩でくずした物を修繕したり、新しく買ったり。それを、また、こわす。また、買う。きりがありゃせん。まるで、夫婦喧嘩のつくろいをするために、働いとるみたいに見えるわ。ところが、そんなに、仲が悪いくせに、別れようともせんし、……子供は、どんどん、生まれるし……」
チヱは顔をあげて、笑いながら、
「おマンさんは、まだ、若いわ。夫婦って、奇妙なものよ。今に、わかるわ」
「そうかしら?……あたし、もし、亭主を持つことがあっても、兄さんのような横暴、絶対、許さんわ」
「おマンさんなら、どうなさる?」
「あたしなら、とっくに、別れます。……ねえさんは、我慢づよいのね。今年の春、兄さんが、変な女にかかりあったときだって、別れようとせんのじゃもん。