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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
これについては近く有名なる奇人的大理学者兼清博士の講演がある筈だから、その秘密はそのおり博士に解決して貰うことにして、我々は再び酒場「巴里」に立戻ると、古市加十はその時あたかも差出されたウイスキー・ソーダをグッと一息に煽りつけ、掌で口の辺を拭うとうるさく首を振りながら、
「ええ――、ほんとうですとも、確かに鳴くんですよ、実にどうもすばらしい声で鳴くんです」
怪人物は訝しそうな眼つきで、
「風声鶴唳ということはありますが、鶴が歌を唄うなどということはまだかつて聞いたことはありません。唄うというならば一体どういう風にして唄うのですか。まさか李太白の鶴のように「松籟譜」を朗誦するというのではありますまいね」
「李太白どころかモツァルト風のギャヴォットを唄うのです。あなたが旅行者だとしてもあまり迂濶ではありませんか。あなたは多分まだ夕陽新聞を御読みにならないと見えますね。それは兎も角それが事実だとしたら、これはいかにも東京ふうな出来事だと思いませんか」
怪人物は頷いて、
「ああ、その点ならば私も同感です。これは確かに東京ふうな出来事に違いありません。どうでしょう、これから一つ私を案内して、その小粋な鶴を見せて下さるわけには行きませんか」