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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

それだからこそこうして神妙にネタを投げ出している。……それを、強請?」

ポケットへ原稿を捻じ込んで立上り、

「それじゃァ立つ瀬がねえ、これァ器用に引込めます」

といって扉口の方へ歩き出す。

局長はあわてて呼び止め、

「まア、待ちたまえ、幸田君」

幸田は嫌々そうに振向いて、

「まだ、何か御用ですか」

局長はハンカチで額の汗を拭いながら、

「何のことだかよく嚥み込めぬが、いずれ改めてその話はすることして、今日はひとつ器用に引取ってくれないか」

「ええ、これからまた溜池署へ引取ります」

局長は嫌な顔をして、

「まア、そう拗ねんでもいいじゃないか。今日中には挨拶に行く」

幸田はツカツカと戻って来て、

「局長、なぜ最初っからそういうふうに話が判らねえんだ。あなたは何でも色眼鏡で見ようとするからいかん。只今の件は心配せんでいいです。幸田はこれでも男です」

嘘か本当か知らないが、こんなことをいって悠々と出て行った。

局長は歯軋りしながら後ろ姿を睨みつけていたが、無念骨髄といった面持で総監と顔と見合せ、

「畜生、どこまでもどこまでも。……しかし、これァ弱った。撰りに選んであいつに握られるとは。