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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

あの毒虫のことだ、何をやり出すか知れたもんじゃァない、君どうする」

「つまり交換条件でしょう。まさかやるまいと思いますが、やれァ自分の身体に火がつくから」

「まさか、やるまい。そんなあやふやなことで放って置けるか、この大事件を。仕様がない、林でもやって何とか押えさせてやろう」

ちょうどそこへ林謹直から電話が掛って来た。局長は受話器を取上げて耳に当てていたがたちまち椅子から跳上り、

「何だと、皇帝が偽せ者だと! ……それは確かなのか、確かに見届けたのか。……おお、これはしたり。……して、それは一体何者だ。……いや、そこでそんな事をいってたって仕様がない。すぐこっちへ来てくれ。すぐすぐ」

と受話器を掛けると、うむ、と呻いて頭を抱えてしまった。

ものの五分と経たぬうちに林があわてふためいて駆込んで来てくわしくその次第を話す。

局長は聞き終って、

「すると、そもそもの間違いは有明荘から始まったのだナ。それにしてもなぜ自分は皇帝でないと申立てんのだろう。そいつは馬鹿か気狂いか、さもなくば皇帝の連累か」

総監もすこし急き込んで、

「どうも、帰するとわれわれの失態なのですが。