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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
それから十五分ほどすると、露路作りの奥の方で賑やかに送り出すどよめきがきこえ、卅五六の、上背のある男が外套の襟を立てて顔を隠すようにしながら早足で出て来た。頬のこけた、瞳の落着つかぬ、見るからにずるそうな面構え。露路口の街灯を避けて、右へ、暁橋の方へ行きかかる。ハッチソンは塀の下闇からバタバタと飛び出して、その前に立ち塞がる。外套の襟を掴んでグイと引き寄せると、
「おいバロンセリ、なんで逃げ隠れする」
読者諸君も御存知でしょう、例の「カーマス・ショオ」。上海へんの田舎廻りの寄席芸人を集めた一座を、ニューヨークの大ジーグフェルドに次ぐ世界的大レヴュウ団にこしらえ上げたのはこの二人の仕業。あたかも今日が日本座におけるその初日なので。
どちらも日仏の混血児。そんなことから意気投合したが、形影相伴って安南、貴州で暗い商売をつづけていた。ハッチソンの噂が出ると、時にバロンセリはどうと、連ね文句のようにすぐもう一方の名が出るほどの間柄。血を分けた兄弟もただならぬこの二人の間にどんな悶着が起きたのか。
ハッチソンはバロンセリを橋の欄干に押しつけて力まかせに揺すぶりながら、