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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

これで王様が「鶴の噴水」の下にいられるという事が明瞭確実になった。……よし、ひとつこの古地図をたよりに台座の下まで辿り着き、王様を掴まえて談話を取ってやらねばならん」

と呟きながらソロソロと暗道の中へ入り込んで行った。

手携電燈で照らして見ると、切石を畳んだ暗道の壁の上には、何とも名の知れぬやもりのような虫が一面に貼りついていて、これが一斉にノロノロと身動きするので、まるで壁全体が揺れるように見える。天井からは鐘乳石のようなものが氷柱のように垂れ下り、その端からポトンポトンと水が滴っている。黴臭い湿った空気がどんよりと淀んでいて、ムッと顔を打つ。

暗道の中は立って歩いて頭が天井につかえないほどの高さだが、足元は高低が一様でなく、粗雑な石畳になっていて、その上ゆるい勾配がついていて上りになったり下りになったりする。頭の上で遠雷のような鈍い地響がするのは、多分電車の轍の音であろう。すると加十はいま田村町の通りに沿って歩いている勘定になる。

十分ほど歩きつづけていると、意外にも暗道は行き止りになった。あわてて古地図をひろげて調べて見たが、地図にはこんな伏樋は載っていない。