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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

武士のわき腹から黒い血が噴出していた。

「敵討か」

三五兵衛はひとごとのように呟いて、

「仇というと悪相で、討つ方というと美男だな」と、その草双紙を元に伏せた。

「美男はいいが、第一、おれの仇は弱すぎる! あんな逃げ下手な、腕の知れた男を、仇としてもったおれは、何という不幸の上の不倖せだろう!」

いつも思うことだが、今もそれを、彼は嘆ぜざるを得なかった。

賛之丞がもッと手強い相手だったら、当然、おれは躍起となる。うんと腕をみがきにかかる。文字どおりの臥薪嘗胆をやる。仇が手強ければ手強いほど、艱苦が伴えば伴うほど、大望ということになり、復讐の念は晴らされる。

ところが、村上賛之丞と来てはお話にならない。あれでも、こんな片田舎では、用心棒ぐらいな事をごまかしているのかも知れないが、少なくも安成三五兵衛の目から見ては、問題のほかだ。

討とうと思えばいつでも討てる――そんな人間を早速に討って、和歌山へ帰って、目出度がられて、おれは満足になり得るだろうか。その上、御加増だの嫁の口の話だのに多忙になって、武士の亀鑑だなどとそやされたひには、穴にでもはいりたくなりはしないか。