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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

残恨・明けぬ鴉

「アア忘れていた。俺ア、たった一つ、娑婆へ、悪い事をし残している。――その後子を生んだたあ、聞いていたが、どうしたろう、あの娘は?」

残恨・明けぬ鴉

思い出すと、雲霧は、もう矢もたても、堪らない。

京都の師匠にも、江戸の親にも、この期になって、会いたいとは、みじん思わぬがたった一つ見届けなければ、気がかりな、女と、子がある。

「何とかして――」

彼の眼は、その朝から、落着かなかった。

夜半を待って当番の蔵六へ、

「おやじどん……。おやじどん」

そっと、話しかけると、

「おう、まだ寝ないのか」

「毎晩、御苦労様ですね」

「何さ、馴れッこだ」

「卯平ってえ、御船蔵の方の番人に、薄々、噂を聞きましたが、伝馬牢の御牢番もなかなか、何年勤めても、楽にゃ行かねえそうですね」

「生活の方かね」

「ま、その懐中で」

「それや、牢番と来たひにゃ、お菰よりゃ増しくらいなものだからな。十七年もやっているが、うまい酒はおろか、正月の餅だって、腹いっぱい食ったことはありゃしない」

「子供は」

「やりきれねえ、七人だ」

「じゃ、大変だ。勤めは重く、扶持は軽し、ってえ奴ですな」

「そこへ持ってきて、奉公先の伜が、売掛け金を持ち逃げしたり、女房は、床につくし、餓鬼ゃ餓鬼で、おとといの夕方、軽尻馬に蹴とばされて、肋骨を折って、寝てる始末だ」