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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁
夏の夜の罪
四つ辻の暗がりから、すぐ、もそもそと、
「若旦那、行きやしょう。――辰巳で。へへへへ。吉原の方で。それとも、或いは、お手近で照降町?」
「四つ手か」
「へい」
「出せ、駕を」
「相棒ッ、乗って下さるとよ」
「急ぐんだぞ」
「へ。どちらへ」
「柳ばし」
夏の夜の罪
「ここでいい」
雲霧は、駕を捨てた。柳橋の上である。橋の欄にいつまでも、肱をもたせて、
「待てよ、止めたがいいか。それとも? ……」と、何か、悶えているふう、迷っている様子。
盗みにではない、女の愛に、また、子の愛にである。
代地の権内の住居が、黒板塀や、霜除け松を川明りに描いて、ついそこに見える。この界隈で夜叉権といわれる高利貸だ。
「もう、一昨年だあ」
雲霧は、ふと、瞼に描いた。
「――忘れもしねえ、餓鬼時分から、早熟な性だといわれた俺が、十九の夏の晩だった」
強慾者、無慈悲な金貸と、前から眼をつけていた権内の家へ、雲霧は、忍び込んだ。
権や召使を縛りあげて、彼は、ぞんぶんな荒仕事にかかった。そのうち、ふと、一間の蚊帳の中に、逃げおくれていた白い顔が、驟雨を予感する夕顔の花みたいに、わなわなとおののき顫えているのを見出した。