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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

分身・一つ印籠

――そうなると、高梨様だって、はじめっから、吟味を洗い直さなくッちゃならねえからの」

蔵六は、もう、腑抜けになった形である。家へ、入る気力もない。

原ッぱの空の下では、さっき追い出した長屋の悪童たちが、銀紙をひらめかして、

「御用だ、御用だ」

と、雲霧ごっこに、夢中だった。

分身・一つ印籠

急に、再吟味が開かれた。

白洲を見下ろして、吟味与力、高梨小藤次は、峻烈に、

「雲霧ッ」と、口を切った。

「へい……」

浅黄ぼけのお仕着、青白い額を蔽う五分月代、彼は、自分の肩や胸の薄ぺッたさを感じながら、砂利を見つめた。

黙っている――

鋭い小藤次の眼が、いつまでも、頭の上にこたえる。四十近い、立派な与力だ。雲霧は、息づまってきた。

「……何なりとも、お訊ねを」

「余り、手数をかけるな」

「死ぬ日を彼岸と、楽しみに、待っている雲霧。決して、むだな手数は……」

「きっと、正直にいってくれるな」

「へい」

「では、相糺すが、そちは真の雲霧ではあるまい、影武者? ――いや影の男、身代りであろう。張本の雲霧は、まだ世間の裏に潜んでおると認めるが、どうじゃ」

「ふ、ふ、ふふふ。こいつア藪から棒、この世に、雲霧は二人とはおりませぬ」