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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁
夕鴉
そして、床屋廻りの元結売りをしているという事はわかるが、根からの、裏店育ちとは、思われない。
――惜しいもんだ。
と、治郎吉は考えるのだ。同時に、有馬の気まぐれが、よけいに馬鹿らしくもなるし、一歩まちがえば、あぶない体でこんな所へ、お仙から頼まれて来たことも、軽い後悔になって来た。
「おらあ、止めた……」
肚のなかで、治郎吉は、呟いた。
「お待ち遠さまで」
と、仁吉は剃り上げた剃刀の毛を、指でしごいて、
「松、洗い水を」
と、下剃へ吩咐けた。
だが、すっぺりと剃り上がった顔を撫でて立ったとたんに、治郎吉のするどい感覚が、恟ッとして、うしろへ走った。
店と奥との、中仕切の内緒暖簾が、彼の眼が走ると共にうごいていた。そして、その暖簾の下に細かい茶縞の着物の裾と、塗鞘の大小の鐺が、ちらと見えて、すぐ消えた。
「おっと、下剃さん。どうせ、風呂へゆくから、洗い水にゃ、及ばねえよ」
抛るように、髪結銭をおくと、治郎吉は、われながら、慌てすぎると思いながら、さっと、土間障子をはやく開けて、往来へ、出てしまった。
夕鴉
二度も三度も、彼はうしろを振り顧りながら走った。往来の人の声が、みんな、鼠小僧、鼠小僧と、指さすように、思われた。