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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

「ど、どうしたと申すのだ。何がどうしたと? ……」

「あれを御覧なさい。お稲さんだ」

「えっ。おお……安成三五兵衛!」

彼は、拳を柄に乗せ、鐺をかんぬきに刎ねあげたまま、茫然と、真っすぐに立ちすくんでしまった。

雲母を浮かしたような薄氷が張っていた。その川の水は、たった六、七間を隔てたのみであるが、賛之丞の眼には、遠い海にも持って行かれるような大きな運命的な流水に見えた。

すらすらと霜の土橋に足痕をのこして、今――その川向うの道を歩いてゆく、女と男のクッキリと見える影があった。

「? ……」

賛之丞は、その両足を大地に凍りつけたように、手を下すことも忘れて立った。

女は、お稲にちがいなかった。お稲はほつれ毛の顔をうつ向けて、髪にのせた手拭の端を咥えていた。また、三五兵衛は、その痩身と骨ばった白皙な顔とを、あからさまな霜光りに曝して歩んでゆく。

その女の一方の手は、三五兵衛の左の脇の下にしっかりと抱きこまれていた。また彼の空いている右手には、氷刃のような白い裸の刀が、歩くたびに、ぎらぎら光った。

「……畜生、畜生」

と、鮎川部屋の者で、口のうちで叫ぶものがあった。