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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁
「町内で、幅がききますからね」
「何とかしてやる。しかし、お喜乃をはやくどうかしろ」
「よほど、お気に召したとみえますね」
「ちょっといいぞ」
「ちょっとですか」
「うるさい。帰れ」
「やっとお暇が出た。――じゃ明晩にでもまた、お喜乃の家へ行ってみますから、その返辞次第で、お伺いいたします」
自雷也床の仁吉だった。こういって、彼が帰ってゆくと、間もなく、寝所へ、召使が出はいりして、雨戸が閉まった。
それから、一刻ばかり間をおいて、治郎吉は仕事にかかった。彼の通ったあとには、足跡もなかった。大工が建具をいじるように、楽に戸を外して、後まで、きちんと、閉めて出て行った。
旅館へ帰るには、遅すぎるし、歩いて時をつぶすには、早すぎた。治郎吉は、手拭にくるんだ重い金を、ふところ手で、臍の上に抑えながら、天満河岸をぶらついて、川の中をのぞいて歩いた。
「ちょいと……ちょいと……お兄さん」
橋の下から、石垣の蔭から、時々艶かしい鼠鳴きが聞える。白い、手が招く。
船まんじゅう、という、売女たちである。――治郎吉は、その一艘の苫の中に隠れた。そして興味も、素ッ気もない、女を買って、とうとう川波に夢を揺られながら、お喜乃の顔を描いていた。