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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁
「ならぬッ」
「近づくと、承知せぬぞ」
と、役人らは、呶鳴りつづけに、歩かなければならなかった。
それが伝馬牢近くへ来ると、命乞いだの、嘆願者だのと、よけいにひどい騒ぎである。雲霧は、軍鶏籠の隙から、路傍に坐って、自分を拝んでいる老婆だの、不具者だのを見た。
「はてな?」
彼は考えた。
「――俺ア、善いことをしたかしら?」
伝馬では、もうくどい吟味はない。白洲で、二番目の時、其方ども五人、当月二十七日、磔刑を命じる――と、それだけのいい渡しをうけたに過ぎなかった。
雲霧は、満足した。
考えてみると、自分では、大した仕事とも、月日とも、思えずに来たが、この足掛け四年に、強盗斬り奪りの件数九十七ヵ所。金高一万両をこえている。
「それだけは、貧乏人をうるおした訳だ。――いわれてみると、俺ア、いつの間にか立派な大盗になっていたんだ。宿願の義賊ともいわれ、世間にも、ちッたあ、有名になったらしい」
満足だった。雲霧は、すっかり、満足して、死ぬ日を待った。むしろその日が、待ち遠しくもあった。
「これや、差入れ物だぜ。お情けに取次いでやるんだから、有難く頂戴しねえよ」
ここの牢番、蔵六というのは、もう五十を越えた男だった。