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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

「おやおや、そいつあ」

と雲霧は、人情ぶかい眼を、牢格子に寄せて、

「おやじどん、どうする気だい」

「しかたがねえから、女衒に口をかけて、一番姉を売っとばそうと、覚悟はしてるが伜の埋め金は、とても、そんな事じゃ、追いつくめえし、訴えられりゃ、お上のお役は、その日から馘になるしの……」

と、蔵六は、貧乏皺の寄った額に手をあてて、重い息をついた。

「そうかい、道理で、この二、三日、おめえの顔色が悪いと思った。――だが、心配しねえがいい。きッと、俺が」

「えっ?」

「耳を貸しねえ……」と、唇をつけて「実あ、ひょっと、思い出したことがある。――というなあ、俺が、お手当をくう前に、三河島の紙漉村の貧乏人に、施してやるつもりで、谷中の天王寺の近くへ埋めておいた金があるんだ」

「ほう」

「たんとじゃねえが四、五百両。――俺が死んだら、世間にも出ず、勿体ねえなあ、と考えついて、実あ、おやじどんに話しかけてみたわけだが、そいつを、使ってくれねえか」

「さあ? ……」と、蔵六は、顫えながら、考えこんだ。

「ほんとかい、雲霧」

「だれが、嘘を。――何も、死んでゆく俺の身は、三途の渡し賃さえあれやいい理だが、天下の御通宝を、腐らしちまうなあ、余り、勿体ねえからの」