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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

胸底・どでん返し

「しまった……し、しまった……」

重心を失ったかの如く、雲霧は、よろよろと腰をついた。

茫然と――

何もかも真っ暗だ。

ただ、幻みたいに、見えるのは、自分の為した罪の結果だけだった。――いやその一つのみではなく、今日まで為した無数の諸悪や業も、彼の弱味に、今こそつけ込んで、この土蔵の中の四角な闇に、げたげたと嘲笑っているかとも感じられた。

遠く――回向院の七刻がうつつな耳に聞える。

「……あ。朝が来る」

雲霧は、よろりと、立った。

そして、力なく、土蔵の口へ歩きかけると、脆い足の乱れが、何か柔らかいものに蹴つまずいた。――はっと、薄氷を踏んだような寒さが、背ぼねを突きぬけて行った刹那に、足の先から、息をふっ返した幼い一つの生命が突然、火のついたように泣き出したのであった。

胸底・どでん返し

それから、間もなく――

田所町のけいず買い、質屋の佐渡幸の奥座敷に、この家にはふしぎな嬰児の泣き声が洩れていた。

「オヤ、どこの子が?」

二階で、夜どおし、壺の音をさせていた乾分が、

「――家にゃ、赤んぼは、いねえはずだが」と、不審がって、覗きに降りてくると、閉め切ってあるその部屋から、