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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

女ひとりと、いわれたので、彼はつつましく、土間の榾薪に、腰をおろし、火桶に顔をかざしながら、話も遠慮がちに、黙然と、吹き荒るる雪の音を聞いていた。

女は、炉べりに、縫物をひろげ、これも黙って、後ろ向きに、針の目を運んでいる。

その横に、地袋の小床があり、伊賀土産の梅干壺に、一輪、寒椿が投げてあって細い句軸がかかっている。そして、ちょうど、女の白い襟あしの上に、仏壇の燈明、仄かにゆれているのだった。家具らしい物はほかに何もなく、外納屋に、手を入れたくらいな、茅ら屋だった。

だが――

心蓮は、額ごしに、さっきから女の姿態に注意をとられていた。人妻ではない。処女である。二十三か、四か。農家の女ではない。きりっと、帯の締め方にも、武家風なたしなみが見える、すんなりと伸びた襟あし、肩の線、それへ辷らせた下げ髪、好ましい形である。

――そして、似ている。

誰に?

さあ、それを心蓮はさっきから考えぬいているのだった。

彼は、記憶の絵巻を、昨日から少年のころまで、逆に、繰返してみた。四、五日まえ、彦根の屋敷小路で見た品のよい娘か、京都で見た多くの美しい女性のうちか、ずっと遠いころの恋人か、人妻か、乳母か、いったい、誰にだろう。