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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

どうして、私には、二人の父があるのでしょうか」

「ば、ばかッ。――誰がそんな事を。誰が」

「たった今、裏から逃げた、地蔵行者が」

「な、何といった」

「いきなり、私を抱きしめて、俺の子だ! と」

「げッ、――灯明を、早く、灯明を」

土間に、置きすててある笈を、老人はひっくり返して、あわただしく検めた。赤い涎れ掛をした地蔵如来、幾つもの巾着、守札、椿の花――

みんな、乳の香のするものばかりだった。そして、笈が、一個の空箱となった後その奥に、ぺたんと貼ってある一枚の紙位牌が老人の眼を、はっと射た。

俗名、高梨外記殿

「ううむ、分った」

老人は、十徳をかなぐり捨てた。おどり上がって、仏壇の錆十手と、干からびた捕縄をつかみ取ると、

「何方へ、何方へ」

「お父様っ、聞かして下さい、今のことを」

「ええお前は、黙っていればいい。――あっ裏口が開いている」

びゅう――と、雪は、大竹藪をなぐっていた。

その下を、彼は、若者の如く潜ッて駆けて行った。藪を出て、一すじの小川を跳ぶと、伊吹の裾につづく関ヶ原の曠野は視野のかぎり、真っ白だ。ただ点々と、黒く見える。足跡のほかは。

その足跡を、彼は、追った。