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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

――で物干しから用心のない戸を開けて、こんばんはといいたいくらい、楽々と、二階へはいって来た。

むろん治郎吉である。藍みじんは、袂も裾も、ぐっしょりと濡れていた。用箪笥の抽斗や、そこらの間を、かた、こと、といっている間に、欄間の額のうらから、手もつけない三つの封金を見つけておかしくなったように、口を押えた。

「あいつの着物じゃ、ちっと、気色がわるいが、間にあわせだ、何かあるだろう」

咳きながら、押入に手をかけて、四、五寸、開けたとたんに、彼は、胆をつぶした。

「あっ、治郎吉さん!」

「シッ」

絞め殺すように、そこにいた、お仙の口を押えつけて、

「おめえは、こんな所にいたのか」

「連れ出しに来てくれたんですか。欣しい! ああ欣しい!」

お仙は、泣いて喜んだ。彼の膝へ、顔をこすりつけて、縛られている体を、押入の中から這わせた。

「さ、はやく、連れて逃げてください」

「待ってくれ、おらあ、おめえを救いに来たわけじゃねえ。この家の総勘定をつけに来たんだ」

そんなことばは、お仙の耳にもはいらなかった。

「何でもいいから、縄を解いて、外へ出してください。私はもう、この世の中に、おまえさんよりほかに、頼る人はないんだから。