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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

ろくろ情

恩とは思わねえで、人を蹴飛ばす法があるかッ」

「やかましいわいッ」

はったと睨んで、久米一、そこに人なき如くこう言った。

「おれの持つわざというものはな、自体こんな狭い山だけに、秘し隠しにされておしまいになるような小さな物ではないのだぞ。芸の術が大きければ大きいほど、世にも響こう世間にも溢れ出よう。それが当然の成行きだわえ! だが兆二郎が加賀の廻し者だとは汝れだけの悪推量、娘の棗に懸想して、それが成らぬところから卑怯な作りごとをして、仇をしよう腹だろうが! ば! ばか者奴ッ」

「うーむ……」と百助、歯を食いしばって無念がったが、それは彼の毒心に、グサと入った匕首の言葉である。こめかみから額に、蚯蚓のような青筋をみなぎらし、

「ちッ……畜生ッ、覚えていろ増長天王め!」

「なんだと」

「う、うぬの陶器は、今日ッかぎりこの百助が手にかけねえからそう思えッ」

「勝手にさらせ」

「オオ久米一、手を切ッたぞ!」

眼に燐火を燃えたたせて、真ッ蒼に怒った窯焚きの百助、捨てぜりふを残してまッしぐらに馳けだして行った。

ろくろ情

峡谷の山村に、春が過ぎ夏が過ぎ、山そのものが色絵錦の陶器のような秋になった。