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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

すこし窮屈な口元の柱を撫でて、お稲はつい鼻の先の闇を、いつまでも透かしていた。

「……いるのかい、仙吉。……仙吉。オオ、ぷーんと酒が匂って来る。お前また酒を持ちこんだね」

撫で下ろした柱の下から、今度は、敷いてある薄縁をソッとさぐり廻して行って、

「……どうしたね、そこの様子は。え、仙吉ってば。……あ、お前ここで寝込んでいるんじゃないのかえ」

指先に触れた着物を頼って、だんだんに肩とおぼしい所まで撫でてゆくと、不意に仙吉の手が――お稲はそう思っている――ぎゅっと強く自分の体を締めつけて来た。

「あれ……お前、どうするの」

そこの壁と襖一重向うには、確かに、あの蟷螂のような浪人が寝ている筈――と、お稲は大きな声も立て得ないで、また、その豊かな四肢をも思うようにうごかし得ないで――

「あ……どう……どうするの、仙吉ってば……そんなにして……胸を。あれ」

襖の奥に、軽い身悶えをする響きが伝わったが、それも、怺え声も止んでしまうと、お稲のからだは抵抗を失ったように、いつまでも、狭い低い暗闇に口がきけなくなっていた。

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