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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

四

あんばいがちがうとみえて、ベソを掻きだしたよ」

「ありがとう、さ、もうこっちへ……」

と、お稲が、手をのばして子を抱きとった時だった。さいの音、駒の音が、時々するほか、ひそりとしていた藪の奥で、ふいに、

「いかさまッ!」

と、するどい声がした。

とたんに、蜂の巣でも突いたように、わっと、大勢の空気が動揺めいた。ふた声、三声、殺気ばしったことばが、そこで、つんざいたかと思うと、

「殺ッちまえ」

と、木の折れる烈しい音や、藪の戦ぎといっしょに、七、八名の大刀に追われ立った笛吹三五兵衛のすがたが、崖を向うへおどり越えて、鹿のように、先へ走って行くのが見えた。

四

「二本差と思って油断していたら、ひどい食わせ者だ」

「ちょんのまに、いかさまで、四十両ほどせしめやがった」

「うまく、捕まえて来りゃいいが」

「なぶり殺しに、のめしてくれなくっちゃ、元も子も奪られちまった俺なんざ、一番に腹の虫が、おさまらねえ」

博労たちは、そこを崩れて、十二、三人ほど一群になって、がやがやと藪を出て来たが、

「おい、見や……」

と、お稲の方へ、顎をさして、

「垢抜けてるぜ」

「ム。この辺の女じゃねえな」