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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

いるな。

来たな!

両方の感覚が無言のうちに冴える。

慎吾は、硬ばった態度をとりながら、一同といっしょに歩みよって、

「七、たいそう早かったな」

「おいでなさいまし」

七は柔和にあいさつをした。そして介添の者にまで、

「今日は、ご苦労様でござんす」と、いつになく慇懃だった。

「そっちの支度はできておるのか」

「へえ。いつでも」

「ウム、そこが打揚場か。幕のかわりに素縄を張ったな」

「死縄のつもりでございますよ」

「なあに、勝敗は時の運だ。半分は天意に任せたつもりでなけりゃあ」

「そうかも知れません」

「お互いに、恨みは残すまいぞ」

「あっしゃ、負けれや恨みを残しますね。残さずにゃいられねえ性分ですから」

「はははは」

と、笑ったが、両方とも空虚だった。そして、さっきから互いにいわせようとしていることが、どっちの口からも出なかった。

で、遂に七がいった。

「ところで、お芳は」

「む、お芳か」

「おまえさんのほうで、今夜ここへ連れて来るということになっていたはずですが」

「連れて来てはおるが、実は、打揚場に女は不浄と考えて怪我でもしちゃあならんから、戸倉の宿に残して来た」

「そうですか」