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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

治郎吉は、拾い取って、

「これだろう」

と、渡してやった。

「有難うぞんじます」

「病人があったり、悪い親切に取ッ憑かれたり、おまえさんも、たいていじゃありませんね」

「え?」

と、眸をこらして、

「どなたでございますか」

「ちっとばかり、お前さんを、知ってるものさ」

「どなた様でしょう、思い出せませんが」

「いつぞや、自雷也床で」

「あ、あの時の」

「よけいな差し出口をするようだが、その金は、費っちゃいけねえ」

「え、今も、追いかけて行って、お返ししようと思ったんですけど、もう姿が見えないんです」

「あっしが、その金は、彼奴に返して上げましょう。また、どんな金の要り用があるのか知らねえが、芸妓に出るなんて、まずい智慧も思い直した方がようがすぜ」

「ご親切に」

と、お喜乃はもう涙ぐんでいる。

いかに、温かさに、飢えているかがわかる。治郎吉は、もっと、もっと、優しいことばを与えたかったが、何だか、お仙や、売女にいうように、すらすらとことばが出なかった。

「どうしてそんなに金が要るんだね。病人の薬代にしちゃ、すこし、多寡が大きいが」

「すこし、事情がございまして」

「あの大病人をおいて、芸妓に出ようという決心をするくらいだから、よくよくだろうとは察しるが」