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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

十

と苦笑していた役人達の顔までが、妙に引緊って来て、目瞬ぎもしない。

「さ、注いでくれ」

言ったかと思うと、伝公の顔は、もう大きな丼に隠れていた。

ガボ、ガボ、と真ッ黒な液体が腹の中へ波を打って流れ込んで行く様は、理窟を考える暇なく、ただ、驚目を瞠らせてしまった。

「お蔭様で、また今日も半日遊ばして貰えたな。じゃ十両は貰ってゆくぜ」

と、伝公は煙草入れへ二十両の金を詰込んで、まだ呆ッ気に取られている周りの者へ、

「あばよ」

と、人のいい顔を作って笑った。

十

伝公は世帯を持っていた。

家は浅蜊の貝殻を踏みつけた高橋際の路地にあった。

大川を向うへ越えて、渡舟を上がった途端から、伝公の挙動が少し違って来た。どうも先刻の悠々然たる伝公とは調子が違う。

そそくさと、一本道に自分の家へ帰って来る。

女気はあるらしいが、留守と見えて、そこらに、ふだん着の長襦袢が見えるばかり。

かれは上がるとすぐに仕事着を脱ぎ捨てた。そして、引っかけ浴衣に手拭一本ぶら下げると、大股に横町を出て、角の銭湯へ急いで来たが、戸に手を掛けて見ると、ガタッと鳴っただけで、開かない。

「おや……」