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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《源頼朝(みなもとよりとも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 頁
箱田の冠者は、その鐘楼で牛若自身から聞いて来たという、ありのままなはなしを伝えて、
「それがしがお縄を解いて、ともかくこれへお供いたそうとすると、若君の仰せには、こよいは谷へ行かぬがよい。なぜならば、夜半にも刻を計って、自らを縛めた法師どもが、鐘楼を見まわりに来るにちがいない。その時、自分の姿が見えねば、六波羅の預かり人が、山落ちして行方を晦ましたるぞとばかり、一山の騒ぎとなり、ひいては谷間に集まる日頃の味方にまで、詮議が及ぼうも計りしれぬ。……わが身だに、一夜の辛抱をしていれば、明日は縄目も解かれよう、生命にかかわるほどの事はない。案じぬように、一同へそう申し伝えてよ。……とのお言葉なのでございます」
「おお、ではご一身の苦痛よりも、一党の発覚こそ、大事なるぞと、仰っしゃってか」
三郎正近も、金王も、感銘に打たれて、一瞬、眸をそこから鞍馬の峰の黒い影へ向けたまま凝然としていた。
大勢の中で、すすり泣く声がした。天与の試煉に会った牛若の偶然に発した言葉が、欣しくもあり、傷ましくもあった。同時に自分等の丹精にも、ようやく苗から一本立ちにまで育てて来た効を見て、急に、胸迫って来たのだった。