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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《源頼朝(みなもとよりとも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 頁

青空文庫

三

手を浄め、口を漱ぎ烏帽子や衣服も新しく更えて来てから、やがて戻ってそこに坐り直した。

座も遠く退がって、

「この配所へ、そも、何事のご令旨にござりましょうか、仰せ聞けくださいまし」

と、両手をついた。

行家は、肌身に奉じて来た宮の御文を錦襴の嚢ぐるみ、額に拝んで持ち出し、

「お近う」

と、さしまねいた。

頼朝は、にじり寄って、両の手に捧げて受けた。

――が、それを開かぬうちに、行家が注意した。

「一通は、其許へ賜わる勅勘のご赦免状であるが、もう一通は、其許と北条殿の両所へ降したもう令旨でござる。――故に、その方は北条殿とご同席にて拝されたがよいと考えるが」

頼朝は、はっとした。

ご赦免――という一語にも。

それとまた、北条殿と同席でという行家の注意にも。――大きな歓びと、大きな当惑とが、刹那、その面を交叉した。

流人という幽暗な壁は十幾年ぶりで除かれた。けれどその歓びにもまさる当惑は、政子の事件以来、時政とは、未だに会っていない事であった。政子のこの頃のことばに依れば、時政は決して、政子をも頼朝をも憎んでいないのみか、むしろ陰にいて、二人の恋が、完うするように計っている――とは聞かされてもいるが、頼朝としては何となく今以て、甚だその人に会い辛い心地にあるのだった。