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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《源頼朝(みなもとよりとも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 頁

青空文庫

五

「……帰る?」

頼朝は、問い返した。わざと冷たい眼を注ぐのであった。

「よいとも、しばらくと云わず、いつまででも、いたい所にいるがよい」

わっと、泣き伏す声がうしろでした。彼は、振向きもせず、長い簀子縁を、ずしずし踏み渡っていた。

屋の西に、木につつまれた一棟がある。昼寝でもするつもりか、大股に、つとそこへ這入ると、

「……おっ」

誰か、小机の前から、びっくりしたように振向いた。

都から流浪して来た藤原邦通という旅絵師だった。酒など飲むと、舞をよくするし、剽気たところがあって、おもしろい男だというので、頼朝にひき留められ、この配所に、もう半年の余も懸人になっている暢気な男だった。

「――誰方かと思いましたら、殿でございましたか。びっくり致しました」

「書いておるね」

頼朝は、亀の前に示した顔いろを、すぐ微笑に消して、邦通のうしろに立ち、彼の筆や絵具のちらかっている机の上を覗きこんだ。

「こんな風に、時々、諸方を歩いて、写しを取って来ては、書いておりますので、なかなか果がゆきません」

邦通は、云い訳した。

そこに書きかけてあるのは、ただの画ではなく、伊豆半国の絵図であった。