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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《源頼朝(みなもとよりとも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 頁

青空文庫

「女ですよ、あなたは。――道中は牛若さまとは呼びませんよ」

吉次は何度も注意した。

「うん、うん」

三条へ出る。蹴上へかかる。

陽が出た。

京の町から朝霧が白々と離れてゆく。

「吉次、待ってくれ」

牛若は、坂の上で、馬を止めた。そして、いつまでもいつまでも、都の町屋根を、じいっと見つめているのだった。

「…………」

吉次も黙って、その顔を下から仰いでいた。べつだん泣いていない。また、去りがてに恋々としている眼でもない。

むしろ、それは、何ものかを睨みつけているようだった。――吉次は、牛若の意中をいろいろに酌んでみたが、十六の子どもだという観念がどうしても先になる。なあに、大人の考えるほど複雑でもあるまい。ついそう片づけてしまうのだった。

宿場帳場も幸いに難なく旅は捗った。美濃路をこえ、尾張の野へかかる頃から、女装の君は、駄々をこね始めた。

「吉次吉次」

「なんですか」

吉次は、道を見まわした。優しげに女を装っているかと思うと、出しぬけに、大人も及ばぬ叱咤を発しるので、そのたびに恟っとさせられた。

「暑いっ。――こんな着物はもう嫌だ。塗笠もうるさい。……ねえ吉次、脱いでもいいだろう」