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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《源頼朝(みなもとよりとも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 頁

青空文庫

六

「何。広常か」

「はい」

「まだおったのか」

「お怒りの解けぬうちはと――」

「ああ、それほどまでに」

大きく、頼朝は云いながら、自身つかつかと広常の前へ歩み寄って、

「老人、御足が痛かろう」

と、軽く彼の肩をたたいた。

「――あっ、これは」

あわてて広常が、手をつかえかけると、頼朝は、その手を掬い取って、

「挨拶はあちらにて受けよう。さるにてもご堪忍のつよい事ではある。頼朝は今、ここ生涯の門立ち、死にもの狂いの気と、秋霜の軍律をもって臨んでおり申せば、自然厳かに過ぐるとも、微塵、日頃の私情や妥協は持ち合わさぬが――ようその軍律にお伏しあったぞ。味方どもの心もこれでよけいひき緊まろう。もうよい。――いざ、こなたへござれ」

と自身、自分の幕営のうちへ、手を取らぬばかり宥りながら導いて行った。

で、広常はようやく、源氏のお味方たることを許されて、初めて自分の陣所へ帰った。

けれどもまだ納まらないのは、彼の肉親たち諸将の輩だった。――その夜、営内に広常を取囲んで、無念の涙さえたたえながら、

「いったい何故あって、あんな辱めをうけながら、誰にも出来ぬご堪忍をなされたのですか――それとも飽くまで彼に油断をさせて、後日、頼朝の首をあげて、一度に、ご鬱憤をはらそうというご計略ですか」