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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《源頼朝(みなもとよりとも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 頁
嬰児が泣く、女たちが呼び交わす。――そして見るまに、その人々の上には、疾風雲のような黒煙が、太陽を赤くいぶして、空いちめん拡がってゆく。
「いよいよ、木曾勢がなだれこんだか」
老人たちが、唇をふるわせた。後から屋根へ上がって行った三、四名の男たちは、
「まだ、木曾勢は加茂を渡りもせぬに、大路は、平家衆の馬や車がなだれ打って、西へ西へと落ちて行かれる」
と、手をかざし、
「あれよ、六波羅も火、西八条からも、大きな火の手が立ちのぼった。――平家衆は都を焼きすてて逃げたのじゃ、わしらも、ここにいたら焼け死ぬぞ!」
もう片々と、黒い火の塵が降って来た。
経文切の灰。
燃えちぎれた錦襴。
火の鳥のように、火を曳いて飛んでゆく無数の黒点が、どこへその火を移そうかと、煙の空を、翔けめぐっている。
「死ぬぞっ」
「焼け死ぬぞ」
諸の路地からあふれ出た庶民の群れは、悲鳴と号泣をあげながら、大路の辻へ押しあった。
陽の光も煙につつまれたまま、七月二十五日の夕べは、夕方のあいろも措かず、いきなり阿鼻叫喚の夜に入った。
一門の第宅十六ヵ所をはじめ、六波羅の相府、西八条の一郭、そのほか繁昌と権勢をきわめた幾多の栄花の殻に、平家は自ら火を放って、その夜、西国へ立ち退いたのであった。