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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《源頼朝(みなもとよりとも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 頁

青空文庫

八

八

その間に。

院のお側近う仕える女房たちから、この日の騒ぎ事が、お耳へつぶさに聞え上げられたものであろう、九条院のお慈悲なり――とあって、

「不愍な者よ。六波羅まで、真昼の途々を、人目に曝され指さされて送らるるとは、余りにも傷ましい。破れ輦なと与えて牛に引かせてよ」

と、女官を通じて、特べつなお扱いが下ったので、迎えに来た問罪所の捕吏や武士どもも否み難く、

「然らば輦だけはさし免すが、構えて美々しゅうは相ならん。はやはや牛を引き候え」

と呶鳴っていた。

常磐は、鏡をたたみ、櫛匣を仕舞って、乳呑みと、ふたりの児を、両側にひき寄せ、

「何時なと……」

静かに、支度のすんだ旨を外へ告げた。

女は女同士。さすがに、彼女がここの雑仕女から玉の枢へ入って、六条の義朝に愛されていた盛りには、嫉みそねみの陰口に暮していた院の朋輩たちも、

「まあ、あの和子さまたちの、可憐しい」

「何も知らず、母御前と同じように化粧して」

「欣しそうにしているだけ、母御前の胸のうちは、どんなであろ」

「かあいそうに」

「見るだに胸が傷む……」

などと、局々を出て佇み合い、柩でも送り出すように涙を溜め、中にはすすり泣きする者すらあった。