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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《源頼朝(みなもとよりとも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 頁

青空文庫

そうした中に、ただひとり泣かない者は常磐のみであった。

中門の外まで立ち出ると、待ちかまえていた武士どもが、荒々しく急きたてたが、

「それへお坐り遊ばせ」

と、子達にも教え、自分が大地へ坐って見せて、

「――では、お慈悲のお輦をいただいて参りまする。女童の頃から雑仕のご奉公を申しあげ、今日という終りの日まで、お廂のご庇護にあずかりました。何とも有難うぞんじまする」

母が両手をつかえたので、今若も乙若も、ふかい意味はわからないが、手をついて、

「さようなら」

と、御所へおわかれを告げた。

「おお、ようなされた」

起つと共に、裏門へ通じる道の岐れに、ぐわらぐわらと牛舎の方から一輛の牛輦が引出されて来た。

それは半蔀の女房輦であったが、余りに用い古されたので、久しく車小舎の一隅へ煤にまみれていたものらしく、前御簾は裂け、轅の塗りは剥げ落ち、ただそれを引くべく付けられた牛ばかりが、逞しい飴色の若牛であった。

常磐は、子を抱いて、破れ輦の内へ潜んだ。それとばかり、武士たちは前後を護る。そして、

「急げよ」

と、牛追を、追い立てた。

鳥羽蔵は、つい先頃まで、六条殿の牛飼宿の頭をしていた者だけに、まどろいと見たか、牛追の男の鞭を奪って、