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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《源頼朝(みなもとよりとも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 頁
三
何の用か、思いよりがないらしい。同じ六波羅の池殿に、余生安らかに住んではいるが、めったに忙しない清盛の住居へなどは渡られない禅尼であるのに。
「ま、会おう。これへご案内には及ばぬ。わしの方から出向くのが礼儀だ。……母御前だからの」
終りは独り言のように、ちょっと億劫らしく顔いろを革めて出て行った。
彼は自我のつよい、吾儘ものと他人には云われているが、骨肉には甘いし、わけて親には、孝心が深かった。
貧乏の味を、骨の髄まで、知っていたからである。
よれよれな布直垂一枚来て、冬のからッ風にふかれながら、父の忠盛の無心手紙を持っては、
(嫌だな嫌だな)
と思いながら中御門殿だの正親町殿だのという公卿へ、わずかな金を借りに行って、
(またか)
と、顔をしかめられ、
(もう来るな)
と、厄病神のように、粟一袋に塩一升ぐらい恵まれて、おまえの親は能がないとか、貧乏平家のすが目のと、口汚く云われて帰って来ても、その粟その塩すら見れば、
(おお、これで今日明日の生命はつなげる――)
と、父も母も、無念とは思わず、かえって随喜したりした頃の――みじめ極まる家庭に育まれて、自然、右を見ても不愍、左を見ても不愍という愛情が、天性というよりも、境遇と共に濃くされたせいであろう。