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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

むらッと燃えながら、十歩ばかり駈け出して、土塀の崩れ目から中を覗きこんだ。ぽきりっと自分の手に大きな響きがした。つかんでいた木の枝が折れて来たのである。

その音に気がついたように、今、空屋敷の雨戸の前にたたずんだ七の顔が、チラとこっちを振り向いた。慎吾はあわてて後ろへ身を退いた。七も意外な顔をして、急にからだを曲げると、横へ反れて、向う側の土塀を越えて戸狩のほうへ帰ってしまった。

だが――七が帰ったのは、慎吾には見えなかった。疑心と嫉妬が怏々と足にからみついて、そこを去り得ないのである。

「あら、慎吾様じゃありませんか」

不意だった。

びっくりして振りかえると、林檎畑の細道から女の姿が歩いてくる。林檎の木の小枝の間からお芳のひとみが見えて来た。

髪の毛から褄先までを、調べるような目でながめて、

「どこへ行って来たのか」

「湯田中まで。――あなたは」

「そなたを探しておったんだ。湯田中じゃあるまい」

「じゃどこです」

「この古家の中にいたんだろう。七のやつと」

「ま! ……」と呆れ顔に笑いかけたが、男の嫉妬の色に気がついて、少し胸の前を離れると、慎吾の腕が、ふいに、抱き倒すように、彼女のからだを巻いた。