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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

「――姉の名を、お呼びになって、貴方様は」

「や、人違い。――余りよく似ているので」

「どこかで、お見かけしたような?」

「四年ほど前に、浪人した清水一角」

「あ、よく姉がお噂をしていた……」

「そのお里どのが慕わしく、旅のついでに、そっと、当地へ立ち寄ったが、今ではどこに」

「姉はもう果てました。ちょうど、あなたが御浪人なさった頃に」

「えっ、死んだ……。それは、ちっとも知らなかったが」

「私たち姉妹ほど、薄命なものは、ございませぬ。姉のお里も、嫁ぐ先が心に染まないで、身を投げたのでございますし、私も、嫁ぐとすぐに良人に死なれて」

もう、美人薄命が真に近いように、美人は多淫であるという言葉がほんとなら、お里も、その一人だったし、このお八重も、そうではないかと、一角は、肩をならべて歩くうちに、勝手な異性観を、描いていた。

人なつこい――柔らかな感じ。そして、男のことばを、怖ろしく、異性的にうけて、蠱惑に反射してくるお八重を、彼は、幾十人もの女を手がけた経験から、

「これは、思いのほか、手なずけ易い。……それに出戻りの女は」

と、もう甘い香を――雪国の女の特有な肌を――官能の中に弄んでいた。