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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《源頼朝(みなもとよりとも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 頁

青空文庫

降ってゆけば、たちまち、岩石の雨や矢うなりを頭へ浴びる。故に、先へ合戦をしかける方が不利という――分りきった兵法の駈引にもよるものだった。

で、薄暮に谷は紫ばんだ陽かげの底になりながらも、まだ根気よく、両軍、静寂のうちに睨みあっていた時、後で思えば、源氏の勢がかたまって見える西側の崖が、暴風雨に土を洗われて、岩石をむき出していたので、自然に、凄まじい土砂岩石の音を交ぜて、ざざざあっと、ひと雪崩に、一角を谷へ削り落したのだった。

「来たっ」

「襲せおったぞっ」

どうっと、その後から、源氏方が駈け降りる、平家方も駈け降りる。――きっかけといえばそれが合戦のきっかけだった。

「ちいッ」

「射止めたっ」

「矢をっ。矢を運べ」

平家方の半数近くはまだ山上に残っていた。手を空しく覗いているのは一部の老将やその幕下に過ぎず、侍たちは弓を立て並べて、またたく間に、背の羽壺のものは射尽してしまった。

「味方を射るなっ。紛らわしいぞ。危ない危ない」

山の中腹で誰か注意する。谷あいの闇は、だいぶ濃い。両軍はもう眉と眉を接しての混乱となっている。

「それっ、行けっ」

いちどに数百挺の弓が下へ置かれた。