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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 鬼の面
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 鬼の面 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,082 characters · 257 screens
「お前はお組の家へ行ってくれ、急ぐんだ、あの女が帰る前に――」
平次は家の中に居るお組に気を兼ねて、八五郎の道草をたしなめます。
「お菊坊の口を開けさせることなら、あっしの方が心得てますよ、親分」
「わかったよ――俺は口説きもどうもしないから、安心して行くがよい」
「ヘェ」
八五郎が未練らしく姿を隠すと、平次は改めてお菊の前へ――精一杯さり気ない顔で立ちました。
「お前にちょいと訊き度いことがあるが」
お菊は顔を挙げました。隣町に住んで居て、銭形平次の顔も知って居り、その評判も心得て居りますが、名ある御用聞にこう声を掛けられると、十八娘の心臓が高鳴るらしく、道具の細々とした顔が引締って、可愛らしい唇がおののきます。
この臆病らしい小娘から、筋の通った話を引出すのは、平次にしても容易ならぬ手数でしたが、でも、散々手古摺らした末、よく遊びに来るのは平野屋の若旦那と、投げ節の小三郎さん、それに御浪人の阿星右太五郎様――などと覚束ない指を折って見せるところまで、心持がほぐれて行きました。
「そのうちで、師匠が一番好きだったのは誰だえ?」
「若旦那の金之助さんでしょうか知ら、――小三郎さんはよくいらっしゃるけれど、嫌われてばかり、帰ると塩を撒いて掃き出すんですもの」