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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 鬼の面
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 鬼の面 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,082 characters · 257 screens
三
草臥れ果てた旅姿のくせに、何んというこれはまた魅力を発散することでしょう。
「親分、可哀想じゃありませんか、つれて行っちゃどうです」
縁台の上に崩折れて、物も言わずに差俯向く娘を見ると、八五郎は我慢のならない心持になるのでした。兄の多弁さに比べて、千万無量の歎きを、ジッと耐えて居るお比奈は、心の中で泣いて泣いて、泣き崩れて居るように思えてならないのです。
「何処へつれて行くのだ」
平次にも旅籠賃の工面などがつく筈もなく、差し向き気のきいた叔母さんの心当りもありません。
「あっしのところでよかったら、叔母さんに頼んで見ますよ、若い女一人位なら、どうにでもなるでしょう」
八五郎は思い切った様子で言うのでした。
三
四日、五日、無事な日は過ぎました。
彼岸過ぎの江戸は滅っ切り涼しくなって遊びにも仕事にも、申分のない日は続きますが、どうしたことか、それっきり八五郎は来ず、今日あたり一つ、此方から押しかけて行って見ようかと思って居るところへ、当の八五郎は、気の抜けたような顔をフラリと持ち込んで来たのです。
「お早う、親分」
「お早うじゃないぜ、八、先刻鳴ったのは上野の巳刻じゃないか」