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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 鬼の面
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 鬼の面 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,082 characters · 257 screens
【第二回】
一
「吾妻屋はそれで清々したというのか」
「ところが大違いで――」
「まさか華魁が後追い心中をしたわけじゃあるめえ」
「いえ、薄墨華魁はいいあんべえに無事でしたが、薬酒を呑んだ積りの吾妻屋の若主人永左衛門も、七転八倒の苦しみで、毒酒を呑んだ大井久我之助の直ぐ後から息を引取りましたよ」
「毒は両方の徳利に入って居たのか」
「そんな筈は無いというんですが」
「行って見よう、八、こいつは厄介なことになるかも知れない」
「ヘッ、そう来なくちゃ――お蔭で薄墨華魁の元服姿が拝めるというものだ」
「馬鹿だなァ」
平次は大きく舌打をしながら、手早く仕度を整えました。
八五郎のような桁の外れた貧乏人でさえ、遊女崇拝の風に染まずには居られなかった時代、薄墨の美貌の作った悲劇の恐ろしさに、さすがの平次も肝を冷やしましたが、事件はこれがほんの発端で、次から次へと、不思議な展開を続けて行くのです。
【第二回】
一
銭形平次は、吾妻屋永左衛門の女房お染――曾ての玉屋小三郎抱え遊女薄墨と相対して居りました。
消えも入るような、歎きの美女の、哀れ深くやるせない姿を見つめて、平次はさて何んと言い出したものか、暫くは言葉もありません。