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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控 鬼の面

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控 鬼の面 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,082 characters · 257 screens

Aozora Bunko

四

、あとはもう出て来る様子もありません。

「番頭さん、あの娘は?」

「親類から預って居ります。お夏と申しますが、年は十九の厄で」

「大層なきりょうじゃないか」

「ヘェ、世間ではよくそう仰しゃいますが」

「ちょいと、あの娘に訊き度いことがある、呼んでくれないか」

「ヘェ」

番頭の弥八が立去ると、間もなく先刻の娘は、唐紙をそっと開けて、滑るようにフワリと入って来ました。八五郎がどんなにでっかい鼻をクン/\さしたところで、裾風一つ立てるような不たしなみな立居はしません。

「お前は先刻何処に居たんだ」

平次の問は残酷なほど露骨でした。

「後ろの方に居りました、桟敷が落ちた時も、少し前へのめっただけで」

娘はそう言って静かに顔をあげます。ニコリともしませんが、いかにも非凡な可愛らしさです。

「お前は四、五日前、明神下の俺の家へ来たそうだな」

「――」

「お勝手から帰ったのは、あれはどういうわけだ」

「――」

「どんな用事があったのだ」

平次は少し畳みかけました。が、

「私は、あの私は参りません」

お夏は真っ直に顔を挙げて、こうキッパリと言い切るのです。

四

女主人のお兼は、少し水を呑んで胸が悪いというだけ、元気よく怒鳴り散らして居ります。