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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 鬼の面
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 鬼の面 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,082 characters · 257 screens
【第四回】
一
不思議な美しさを持った娘――お侠で柔順で、賢くて無知で、顔の道具の揃わないのが、反って一種の魅力になって居た矛盾だらけの江戸娘は、自分を害めた者の名も言わずに、一刻一刻、いや一瞬一瞬、命を燃やし尽して、母親の後を追うのでした。
「お嬢さん、相手は、相手は?」
平次もたまり兼ねて、自分の膝の上に死んで行く娘の耳に張り上げました。
「――おんな――」
僅かに答えたお絹、それは本当に精一杯の努力だったでしょう、やがてもう一度眼を開くと、
「――みず、――水を――」
かすかに口を動かして、そのまま息は絶えてしまったのです。
見ると枕から二尺ほど離れて、この娘の首筋を刺したらしい、抜刀の脇差が転がって居りますが、それは後になって、此佐渡屋の先代の脇差で、使い手も無いまま、納戸の用箪笥の中に入れてあったものと解っただけの事でした。
「どうしたんです、お嬢さんは」
梯子段を倒様に這い落ちるようにして、店二階に寝て居た与之助が、真っ蒼な顔を出しました。
「何んかあったんですか、お嬢さんに」
裏から飛込んで来たのは、お寺へ使いに行った筈の手代の直次郎です。
【第四回】
一
「親分、憎いじゃありませんが、どんな野郎が、これほどの虐たらしいことをしやがるんでしょう。