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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控 鬼の面

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控 鬼の面 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,082 characters · 257 screens

Aozora Bunko

座を斡旋してくれるのは、特に呼んだ若い芸子が二人、これが内儀が引込んだ後の座を取持って、必死と骨を折って居る様子ですが、月の光に照されて、海の底のように静まり返った一座の空気は、三味線でもドラでも、感興を掻き立てる工夫はありません。

「さて、御両所」

月まさに三竿、酒もやがて爛酔に入った頃、主人の永左衛門、改めて膝を直しました。

「改まって何事じゃ、御主人、今夜はもう六つかしい事を言わぬ筈では無かったか」

国府弥八郎は、両手を宙に泳がせます。

「いや、此ままでは、大井久我之助様もお気がお済みになるまい、抜刀で脅かされた私も、町人ながら諦め切れません」

「――」

「国府様の御はからいで、一応は納まりましたが、納まり難いのは、大井様と私の胸のうちでございます」

「何を申すのだ、御主人」

「私が町人でなく、二本差している身分の者なら勝負けは兎も角として、一応は大井様の御相手をいたすべきですが――」

「――」

大井久我之助は、真っ蒼な顔を振り上げると、そっと一刀を引寄せます。

「町人の悲しさ、算盤を持つのが精一杯で大井様のお相手はいたし兼ねます――が、そうかと申して、犬や猫のように、何んの手向いもせずに、斬り殺されてしまっては男と生れた甲斐がございません」