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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 鬼の面
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 鬼の面 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,082 characters · 257 screens
五丁目で売込んだ本道の杏斎が、平次を迎えて大きな坊主頭を振り立てます。
「杏斎先生、お話と仰しゃるのは」
「少々他聞を憚かるが」
眼顔で誘い合って、二人は部屋の隅に、吹き寄せられたように顔を突き合せました。
「どんな事で?」
「昨夜、あの騒ぎに立ち会った私が、医者としてはなはだ腑に落ちないことがあるのじゃ」
「?」
「外でもない、大井久我之助様の命を奪ったのは、日本には類のない薬で、これは恐らく南蛮物であろう、――ところが、暫く後で発病した、此家の主人永左衛門殿の呑んだのは、それと全く違ったありきたりの、石見銀山鼠捕り、つまり砒石じゃ、二人の症状はまるで違う」
「――」
「念のために、騒ぎに紛れて誰も気のつかぬうちに、私は二本の徳利を見付け、封印をして持って帰ったが、家で調べてみても同じことだ、徳利は伊万里の無地で、一寸見てはけじめもわからぬが、中味は全く違った、二様の毒酒が入って居るのじゃ」
「それは容易ならぬことですが、杏斎先生」
「全く容易ならぬことだ、――これだけ申上げたら、親分の調べに、何かの助けになろうと思ってな、いや、忙しいことじゃ」
杏斎先生は、自分の言うだけの事を言うと、ろくな挨拶もせずに、サッサと帰って行くのです。