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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 鬼の面
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 鬼の面 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,082 characters · 257 screens
平次は、兄妹とも夫婦とも見える、この二人の前に突っ立ちました。
「ヘェ」
「怪我をして居るじゃないか」
「危なく返り討ちになるところでした――、親分さんが、お出で下さらなきゃ」
若い男は、血だらけの顔を振り仰ぐのです。
色白で少しのっぺりして居りますが、なかなかの好い男です。縞物の地味な袷、小風呂敷包みを、左の手首に潜らせて、端折った裾から、草色の股引が薄汚れた足袋と一緒に見えるのも、ひどく手堅い感じでした。
「返り討ちは穏やかじゃ無いな、――一体どうしたというのだ、いや、此処じゃ人立ちがして叶わない、八、其辺の茶店の奥を借りるんだ、お前は娘さんを――」
平次は眼顔で八五郎に合図すると、直ぐに傍の茶店の奥へ、若い男をつれ込みました。
その後から、旅姿の娘に肩を貸して、同じ茶店の奥へ入って来る、八五郎の甘酸っぱい顔というものは――
何しろ娘の可愛らしさは非凡でした。旅姿も舞台へ出て来た名ある娘形のようで、汗にも埃にも塗れず、芳芬として腋の下から青春が匂うのです。
「先ず、その傷の手当をするがよい」
奥へ入った平次は、若い男の右小鬢の傷を、茶店で出してくれた焼酎で洗って、たしなみの膏薬をつけ、ザッと晒木綿を巻いてやりました。