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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 鬼の面
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 鬼の面 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,082 characters · 257 screens
肩を何んかの弾みに打っただけで――親分に見て頂くがよい、少し黒血が溜って居ましたが」
母親にこんなことを言われると、お絹は驚いてその後ろに姿を隠しました。この名ある御用聞から、肌を脱いで見せろ――とでも言われたらどうしよう、と言った処女らしい恐怖に、思わず尻ごみをしたのです。
お絹は始終うつ向いて、黙り込んで居りますが、それは町娘らしい、お侠と柔順さと、賢さと無知と、矛盾した性格を巧みにあしらった、まことに愛すべき存在らしく見えました。色の少し浅黒いのも、この娘にとっては清潔らしく、第一眼鼻立ちの不揃いな魅力は、江戸の下町でなければ、日本中何処へ行っても見られない型です。
平次はそこをいい加減に切あげて、店の二階の奉公人達の部屋に寝ている、甥の与之助と手代の直次郎を見舞いました。
「あ、銭形の親分さん、相済みません、こんなところへ、私はもう大丈夫なんで――」
そう言って起上ったのは、手代の直次郎でした。それは二十七、八の良い男で、出ししゃくれた生白い顔も、男にしてはニヤケ過ぎますが、その代りお世辞がよくて、商売上手で、佐渡屋の先代から重宝がられた存在です。