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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 鬼の面
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 鬼の面 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,082 characters · 257 screens
「そんな事なら、あっし一人で沢山で」
八五郎は気軽に飛んで行きます。
その後ろ姿を見送って平次は、養子の与茂吉に案内させて裏木戸の方に廻って見ました。
裏木戸の近く、板塀の裾にあいている犬潜りの穴は、飼犬や野良犬が往来するために、板の割れ目を押し破って作ったもので、素より人の手でわざ/\拵えたものではありませんが、横七寸、縦一尺ほどで、華奢な身体なら、存分人間も潜れないことは無かったのです。
「これは何時頃から出来ているんだ」
平次は与茂吉を振り返りました。
「この春まで犬を飼って居りましたが、さかりがつくと、どんなに厳重に繋いで置いても、綱を噛み切って、塀を押し破って飛出してしまいます。あんまり度々のことでそのままに放って置きましたが、ツイ一と月ばかり前、その犬も番木敞か何んかを食わされて、殺されてしまいました。犬潜りの穴は塞ごうと思いながら、ツイそのままになって居ましたので」
与茂吉の話は、よく筋が通ります。もっともこの男は多弁で軽薄らしささえ無ければ、立派に若旦那で通る男前です。
平次は念のために、穴を捜ってみて、あわてて手を引込めました。穴を形作る板の縁には、幾箇所かに釘を植えて、その錆びた釘で、少しばかりの引っ掻きを拵えてしまったのです。