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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 鬼の面
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 鬼の面 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,082 characters · 257 screens
江島屋の大納戸と相対して居るのは、まだ建ったばかりの新しい長屋で、与茂吉に開けさせ中へ入り、二階に飛上って雨戸を開けると、
「あ、矢張り此処だ」
平次が歓呼をあげたのも無理はありません。二階正面の柱が一本、中程がひどく傷んで、向うの江島屋の大納戸の柱の傷と、まさに呼応して居るのです。
「八、其処の押入を見てくれ、綱がある筈だ」
「よし来た」
八五郎の引開ける手に従って、空っぽの押入の中にとぐろを巻いて居る、逞しい綱が一本、
「それだよ、八、出して見てくれ」
平次が声を掛けるまでもなく、八五郎はもうそれを手ぐり出して居ります。
「あ、この綱は、家の物置にあったものですが、何うして此処へ」
与茂吉はいささか呆気にとられた形です。
「あ、痛ッ」
八五郎は飛上りました。何んかにさされでもしたか、無闇に左の手を振って居ります。
「どうした、八」
「綱に棘がありますよ」
「そんな馬鹿なことが」
平次は八五郎の手ぐり出した綱を、丁寧に調べ始めました。
「成程、これは大変だ、針だよ、八、それも三本や五本じゃねえ」
綱の中程のところに、一寸では見えないように刺し込んである針が五本、十本、それは布団針の太く逞しいので、そのあたりの綱に、少しばかり血がにじんでいるのも無気味です。