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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
Read 風流太平記 (ふうりゅうたいへいき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 244,473 characters · 487 screens
あとでわかったのだが、そこは山内の破戒僧と、檀家の女性との密会に使われていたのである。
護衛の三人はいなくなり、女と二人だけで離れ座敷へ通された。こっちにも魂胆(つなの所在を探りだそうという)があるから、云われるままに風呂へ入り、出された丹前に着替えて、悠々と膳の前に坐った。
それから約二刻。もう日が昏れかかり、座敷には灯がはいった。絹の丸行燈で、あたりがにわかに嬌めくようであった。
女は初めからひどく誘惑的で、
――あたしあなたが大好き。
などと云い、溶けるようなながし眼で、しきりに彼の顔を見つめるのであった。
――なにを云やあがる。
万三郎は心の中で冷笑した。そんな手は古いぞ、とも思った。彼女がこちらから、「朱雀調べ」の内容を嗅ぎだそうとしていることは慥かである。つまりお互いの化かしあいなのだが、女は些かもそんなふうはみせなかった。ただもう万三郎が好きで堪らないとか、昼も夜もあなたのことばかり想っているとか、どうか自分のこの気持をわかってもらいたい、などとくどき続けるのであった。
これは酒よりも大敵であった。
初めは適当に受けながしていたが、しだいに熱を帯びてくる女の囁きと、その柔軟なからだで表現する不謹慎な嬌態とは、ともすると万三郎の意志を昏ませ、抵抗の力をぬき去ろうとした。